ラスティー日記 19







○月×日


 キッキィ〜〜ッ…

 嫌な音を響かせて、ボサボサの車が急停車した。

 
 助手席でウトウトしていた僕は、シートから転げ落ちそうになり、慌てて辺りを見回した

 …でも、窓の外は相変らずシーンとしていた。

僕達が来た道以外、山と草原が在るだけで、
他にはなんにも美味しそうな物なんてありゃしない。
それなのに…
 
「ちょっとここで待っててくれ」

  ボサボサはそれだけ言うと、草原の中に駆けて行ってしまった

 「なんだよ慌てちゃって、おしっこでもするのか?」

 僕は、ボサボサをからかってやろうと思い、窓枠に上って草原の中を探してみた。
 
「ん…いたぞ、いたぞ」

 ボサボサは腕組をしながら、山の方に向って何かブツブツ言っている
どうやらおしっこじゃなさそうだ
運転のし過ぎで頭がおかしくなっちゃったんだろうか?
 




 しばらく見ていたが、ボサボサが戻って来そうにないので、
僕は調子に乗って、車の屋根に登ってやった

 でもやっぱり見えたのは・・・
遠くの山の麓までずーっと同じ大草原が続いているだけだった。

家も車もお菓子屋さんも、僕達以外になんにもありゃしない。


 急にボサボサが振り返り、僕と目が合った
 
「オイッ、ラスティー」
 ボサボサが凄い勢いで駆けて来る
 
 「あっ、見つかった…怒られる」
 僕が屋根から飛び降りようとした瞬間、ボサボサがまた叫んだんだ

 「よーっしラスティー、ここに決めた。準備するぞー!」





 ポカンとしてる僕には目もくれず、ボサボサは車に戻ると、急いで撮影の準備をし始めた。
 

 あっと言う間に大きな三脚が立てられ、その上に重そうなカメラが乗っかった。
 
風の音しかしなかった静かな草原の中に、
カシャン、カシャン…とボサボサのカメラの音が響いていた

 「うーむ、良いな〜…どうだラスティー凄い景色だろ?」
 機嫌良く撮影をしながら、ボサボサが僕に聞いた

 でも僕は返事をしなかった

だってさ、どうも違うんだよね、何て言うのかな〜
感性って言うか、パッと見てビビビッて来る動物的カンに欠けてるって言うのかな……
 
 僕は段々じっとしてられなくなって、屋根の上から大声で叫んだんだ
 「もっと右だ―左だ―…」ってね。
 なのにさ、そんなの全く無視するんだよ
人の言うことをちゃんと聞かないからいつまで経っても上手くなんないんだぞ!

 僕はもう一度大声で「ミャ〜」って叫んでやった

 このまま知らん振りしててもいいんだけどさ、
早くお金持ちになってブランド物のキャットフードに代えてもらいたいから、
やっぱり言うべき事は言わないとさ
 
 「違うってば…今だよ…もーう、何やってんのさ」



   



 僕はとうとう抑えられなくなって、ボサボサの所まで駆けて行き、
そのまま一気に肩の上によじ登った。
相変わらずごつごつしていて、あんまり乗り心地は良くないけど、
この際贅沢は言ってられないよ。
僕は不安定な肩の上で、少しだけ背伸びをしてから辺りを見渡した。
 
「ほらね…やっぱりそうだよ、
もう少し右だと思ったんだ。そう、そう…そんな感じかな」

 僕は肩の上からカメラを覗き込んだ後、
真っ直ぐ前を見て「ニャ―」って鳴いたんだ、
ボサボサはその声を合図に素早くシャッターを切った。

 「そうそう、それでいいんだよ…」

 僕は心の中でそう呟いていた。
 僕は何だかとっても上機嫌で、得意そうに空を見上げて「ふんっ」何て言ってみたりした。
 
 「あら、ラスティー偉いわね〜お仕事のお手伝いしてるの?」
 後からキャンキャンの声が響いて来た
 
 僕は益々得意そうに胸を張って…
 「手伝ってるんじゃなくて、教えてやってるんだ」って言おうとした
…その時さ
横から先にボサボサが言ったんだ
 「さっきから、ラスティーが撮影の邪魔ばかりするんだ…」
 




 僕はキャンキャンに抱えられ車の中に連れ戻された。
 締め切られた窓ガラスを何度も何度も叩きながら、僕は言ってやったんだ
撮影を続けるボサボサの背中に向かって
大きな大きな声で「ミャ〜〜〜ォ」ってさ