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ラスティー日記 16

○月×日
「大丈夫だ、誰も見ちゃいない」
ガサゴソ…ガサ…
「よしっ、やった、ついにやったぞ…
僕は逃げ出したんだ…へっへっへ…本当にやったんだ」
チャンスはほんの一瞬だった
ボサボサとキャンキャンが車を離れたほんの少しの間に
僕は開いていた窓からバックミラーによじ登り、ボンネットからバンパーへ、
そして一気に車の下へと逃げ込んだんだ
完璧さ、失敗なんかするもんか
だって、ずーっと前から考えてたんだ…
「いつかは僕も自由に山の中を走り回ってやる」ってね
「すー…はーっ…」
僕は、大きく一度深呼吸をした・・・やっぱり外の空気はおいしいや
「さてこれからどこへ行って、何して遊ぼうか?」
…でも、ゆっくり考えている余裕は無くなった。
ドタドタドタと足音を響かせて二人が戻って来たんだ
「どっ、どうしよう、早過ぎるよ…」
僕はとりあえず車の陰に隠れて、身構えた
開いたままの窓から、車の中を覗き込んだボサボサが大声で叫んでいる。
「大変だ…ラスティーがいないぞ!」
急いで二人が車の周りを調べ始めた
「だめだ、このままじゃ見つかっちゃう、せっかく逃げ出したのに…」
僕はこれからどこに行くかも決めないままに、
車の陰からトレーラーの下に向かって走り出していた。

「あっ、いたわよ、ほらあそこ…トレーラーの下!」
キャンキャンの甲高い声がトレーラーの下まで追いかけて来る。
僕は必死になって走った
トレーラーの下から足を緩めること無く一気に反対側の草むらに、
そしてそのまま森の中まで逃げ込んだんだ
「待てーラスティー、森の中に一人で行くんじゃない」
「ラスティー、オオカミに食べられちゃうよー」
二人の声が聞こえたが、誰が止まるもんか、僕は夢中で走り続けたんだ。
どれくらい走ったんだろう?
息がきれて、心臓がドキドキして、足までガクガクしてるけど…
「何だかとっても気持ちがいいや、こんなに走ったの初めてだ」
僕は大きく肩で息をしながら、ゆっくり辺りを見渡した
……「大丈夫だ」……
もう誰も追っかけて来ないぞ。
「ついに自由なんだ!」
僕は急に嬉しくなって来た
草むらの中をチョウチョを追いかけ、いつまでも跳び回った。
花の上にいたてんとう虫を、大声で「ワッ」て驚かしてやった。
大きなバッタとジャンプの競争をして、でんぐり返って、泥んこになったって、
もう誰にも怒られたりなんかしないんだ。
何もかもが初めてで、楽しいったらなかったさ…
…でも、
夢中になって遊んでいた僕は、気が付くとトレーラーの場所がどこなのか、
全く分からなくなっていた。
どこから来たのか、どっちに帰ればいいのか…全然分かんないんだ
右も左も同じような木と草ばっかりで、
歩いても、走っても、グルグル、グルグル同じ森の中なんだ…
いくら歩いても帰れない…
お腹が減って力も出ない…
足が痛くってもう歩けない…
おまけに雨まで降ってきて…
僕はもう泣きたくなって来た
雨粒がポタポタ、ポタポタ落ちて来て、
草むらもペタペタ、ペタペタくっついて、
大嫌いな水が、上からも下からも僕のことをいじめるんだ。
雨が降り出すと、森の中は急に暗くなって、風が冷たくなったんだ
「ホーホーホー…」
「ギャーギャーギャー…」
「チチチチチ…」
森中にいろんな叫び声が響き渡り、
さっきボサボサとキャンキャンの言ってた事が頭の中に浮かんで来た。
「食べられちゃうぞー…食べられちゃうぞ―…食べられちゃうぞー…」
僕はまた走り出した
もう怖くて怖くてじっとなんかしてられない。
…でも、走れば走るほど道が分からなくなっていく。

僕は大きな木の下に座り込んだ
「どうすりゃいいんだよ〜」
大声で叫ぶと、木の枝から水滴がポタポタポタと落ちて来て、また僕をいじめた。
「もう嫌だー帰りたいよー」
僕は、寒くって、悲しくって、怖くって、とうとう「ニャ〜〜〜」と泣いていた。