ストーンマウンテン

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「大丈夫、大丈夫・・・全く心配無い、凄く良い道だから、大丈夫!」

ほんの10分ほど前、
この道で唯一すれ違った車のドライバーは、笑いながら確かにそう言った。





この日、カナダ・ブリティッシュコロンビア州北部を旅していた僕は、
地元で手に入れたオフロードマップを見ながら、近くの山頂を目指していた。

目指していたと言っても、
そこは特別有名な観光地と言う訳でも、展望台等が有る訳でも無く、
読んで字の如く、単に「山の頂き」というだけの、ほとんど人の行かないような場所だった。




英語と日本語には同じ動作をしても、違う表現で現す言葉が多い。
日本では「地図を見る」と言うが、英語では「地図を読む」と言う。
僕も小さい頃から、この「地図を読む」事がとても好きだった。

地図の中の道を辿りながら、自分の行った場所を見つけ出すのは、
まるで宝の島を探しているように僕を楽しませてくれた。

逆に行ったことの無い世界を想像する時も、
まるでおとぎばなしの本の様に、地図からいろいろな物語を連想させてくれた。

そしてそれは大人になってカナダに移住した後も同じで、
僕は地図さえ有れば、幾らでも時間を費やす事が出来た。



カナダに移住してしばらくした頃、
一般の道路地図とは別に、オフロードマップという物が有る事を知った。

普通の人が、普通の車で、普通にドライブ出来る舗装された道

・・・から大きく外れて

変わり者が、四輪駆動車で、舌を噛みそうになりながら、ガタガタの山の中を走るのだ。
そして・・・
この日、僕が走っていたのは、まさにそんな舌を噛みそうな道だった。



舗装路を外れてしばらくの間は、
カナダ北部特有のタイガ(北方針葉樹林帯)が果てし無く広がっていた。

だが少し高度が上がると、辺りの風景は一変した。

森林限界を超えたのか、回りにはただごつごつとした岩だけがころがり、
他には何も見当たらない。

見晴らしはとても良くなったが、少々良過ぎて恐ろしい。

その中を一本の道(らしき物)は、ただひたすら砂と岩の瓦礫の急斜面を、
上へ上へと続いていた。


僕は「ゴクッ」と唾を飲み込んだ後、車のギアを滅多に使わない4Lに入れた。
4Lと言うのは、四輪駆動の中でも特別馬力のいる時にしか使わない特殊なギアだ。

ガクンッと一度大きな振動を感じた後、グゥオーとエンジンの音が迫力を増し、
そのまま急な登り坂へと突入して行った。


「良い道だなんて言って・・・道が見えないじゃないか!」

目の前に在るのは、ただスカンッと青く澄んだ空だけで、
他には何も見えやしない。

そう、坂道の角度が有り過ぎて、直ぐ目の前に有るはずの道が見え無くなってしまうのだ。
やっと道が見えたと思うと、今度はクネクネ曲がりながら、急なアップダウンを繰り返す。

道の端がどこまで在るのかがほとんど分からず、
急な坂の為、少しでも油断してると直ぐにスピードが出てしまう。
その上、砂と瓦礫の路面で、急ハンドルや急ブレーキなどしたら、
一気にそのまま谷底まで滑り落ちてしまう。


「くっそーあのオヤジ、騙しやがったな!」

僕は一人ブツブツ言いながら、なんとか山頂を目指し、必死に車を走らせ続けた。


そして、そこで見た景色のスケールの大きさに、ただ言葉を失った。


360度、見渡す限りの山波がどこまでも果てし無く続き、
ゴツゴツした岩山と、深い針葉樹の森が作り出すコントラストが、とても新鮮に感じられた。
遠い谷間には、山を擦り抜けて進むように、幾つもの川が走っている。


僕がさっきまでいたのは、いったいどの辺りなんだろうか?
僕がさっきまで見ていたのは、なんて小さな世界だったんだろうか?


雲と同じ目線から見る雄大な景色の広がりに、僕は何でもいいから叫びたい気分だった。