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俺はニワトリじゃないんだぞ〜!
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下記の原稿は、2001年モーターマガジン社・月刊カメラマン誌に連載された《カナダ写真生活日記》の内容に、
加筆・訂正を加えてレイアウトし直した物です。

「俺はニワトリじゃないんだぞ〜・・・」
僕は大切に玉子を抱え、寒さに震えながら、ペラペラの寝袋の中でそう叫んでいた。
2000年12月31日、
いよいよ明日に迫った21世紀を、雪山のテントの中で迎えようと考えた僕は、
アメリカとカナダの国境近くの山で、一人雪中キャンプをする事にした。
冬山撮影用の大きなスノーブーツを、
これまたばかでかいスノーシュー(かんじきのような物)にしっかりと固定し、雪原へと歩き出す。
アヒルが歩いているようで、見た目にはなかなか楽しそうなのだが、
これが結構重く、慣れないと、なかなか前へ進まない。
この日のスノーシューは、新雪でも深く沈み込まないように、
後部にエクステンドボードを付けているので、尚更歩き難い。
もう一つおまけに、僕は典型的な外股歩きなので、
踏み出そうとした足を、反対側の足が踏んづけてしまい
何にも無い所で、一人でコロコロ転がってしまう。
息をはぁはぁ言わせながら、 積もったばかりの新雪を何度も踏み固め、
ようやくテントの設営が終わると、早くも今世紀最後の太陽は、山の向う側に姿を隠していた。
次に昇って来るのは、もう来世紀の太陽だ。
僕はわくわくする気持を抑え、明日の撮影に備えて、最終の機材チェックを始めた。
電池は忘れずに抜き取り、一晩中胸のポケットで温めておかなければ、
酷寒地では、直ぐに電圧が下がって使えなくなってしまう。
カメラやレンズはフカフカのタオルで包み、クーラーバックの中にしっかり積め込んでおく。
出来るだけ外気と接触しないようにしておかなければ、狭いテントの中では、
僕の吐く息や料理の湯気で、直ぐに機材が結露を起こし、瞬く間に凍り付いてしまうのだ。
全ての準備が終わると、僕は早めに寝袋の中にもぐり込み、明日の事を考え始めた・・・
「気温は?…天気は?…撮影の状況は?・・・」
・・・何て言う事はなかなか浮かばず、
不思議な事に、なぜか山の中で一番頭に浮かぶのは・・・いつも、食べる事だった。
「朝起きたら何を食べようか…」
そして僕は、ふっとある事に気が付いた。
その日のキャンプ地は山と山に囲まれた場所。
日没から日の出までは約18時間もの長い夜が続き、
気温は既にマイナス15度を下回っている。
「そうだ、生玉子を温めておかないと!」
僕は急いでケース入りの玉子を取り出し、二重にした寝袋の間に、大切にはさみ込んだ。
こうしておかないと、朝食は冷凍玉子になってしまう。
普段ならインスタントラーメンだけで充分なのだが、
せめて正月くらいは豪華(?)に玉子ラーメンで祝いたい。
僕はニワトリになった気分で、玉子を抱え、いつの間にか眠っていた。
サラサラサラ・・・サラサラサラ・・・・
どれくらい経ったのだろう、僕は不思議な音に目を覚ました。
耳を澄ますと・・・またサラサラサラ・・・というかすかな音が聞こえて来る。
どうやら雪が降り始めたらしい。
僕はそっとテントから顔を出して、外の様子を覗った。
コロコロした小さな小さなパウダースノーが、フライシートの表面をそっと撫でて行く度に、
テントの中には何とも言えない心地良い音が、優しく響いていた。
僕の燈したライトの光が森に広がり、少し異様なほど明るく感じられ、
その外側の闇が、逆に恐ろしいほど暗く思えた。
サラサラサラ…という音以外には何も聞こえず、
いつも通りの静かな時間がゆったりと流れる中で、僕はいつの間にか21世紀を迎えていた。
「きっと明日の朝は、綺麗な新雪の写真が撮れるだろう…」