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綺麗な道
掲載の全ての写真と文章の著作権は、作者藤江幸宏が保有しております。無断での転載・引用は法律で禁じられております。
下記の原稿は、2001年モーターマガジン社・月刊カメラマン誌に連載された《カナダ写真生活日記》の内容に、
加筆・訂正を加えてレイアウトし直した物です。

「なんて綺麗な道なんだろう・・・」
秋の黄葉撮影の為、バンフの南東に位置するカナナスキスカウンティーを旅していた僕は、
思わず車を止めてそう呟いていた。
カナダ西部からロッキーにかけての広い地域では、
紅葉ではなく、ポプラや白樺など黄葉する樹木が非常に多い。
薄っすらと雪化粧を始めた山の頂き。
落葉樹の鮮やかな黄葉と、針葉樹の深い緑の創り出すコントラスト。
その中央を貫く一本の道。
なんとも絵になる風景だ・・・
・・・だが、
その時僕の言った「綺麗な道」という言葉は、そういう意味ではなかった。
本当に道路その物が、とても綺麗だったのだ。
カナダの山岳道路は、冬場のスパイクやチェーン、
スリップ防止に撒かれる砂などの影響を受け、路面が傷んでいる場合が非常に多い。
そのうえ北部などでは、永久凍土や寒暖差の影響からか路面がひび割れたり、
ひどい場合は道路その物が波打っていたりする事もある。
だがこの道は、冬季は閉鎖され、
夏でもあまり交通量がないためか、実に路面が綺麗だったのだ。
言葉にするとなんとも単純な事のようだが、
傷ついていない綺麗な道、それを取り囲む素晴らしい風景、
そしてそれらを引き立たせる為の光やその他の外的条件が良い状態で揃う事は
非常に稀である。
久々に綺麗な道路を見付けた僕は、
早速その辺りを行ったり来たりしながら、気に入った場所に車を止めて、
その「綺麗な道」の撮影を開始した。
滅多に車が来ない事を良い事に、
大胆にも道路の真ん中に三脚を立てて撮影をする。
忘れた頃に車がやって来るが、シーンとした山岳道路は他に騒音がほとんど何も無い為か、
かなり遠くからでも、車の近付く音がはっきりと分かるので、問題は無い。
静かな山の中、邪魔者も無く、僕はとても気分良く、撮影を続けていた・・・
・・・が、
次の瞬間、突然撮影は中断された!
足音も、何の気配も全く無いまま・・・いきなり直ぐ目の前にクロクマが現れ、
僕はビックリして、三脚ごと後ろに引っくり返りそうになっていた。
だが、急いでファインダーから目を離すと、実際のクマはまだ数十メートルも先にいた。
そう、・・・望遠レンズを使っていた為、
直ぐ目の前に飛び出して来たのかと錯覚してしまったのだ。
道の真ん中で仁王立ちするクマと、僕はレンズ越しに突然目が合ってしまったのだ。
しばらくはお互いに観察をしていたが、
僕がゆっくり手を振ると、彼は慌ててまた森の中へと消えて行った。
きっと、近付く冬に備え、食料を探しに出て来たのだろう・・・
この美しい道が再び雪に覆われる長く厳しい冬は、もう目の前まで迫って来ている。
そう思うと、なぜか少し急ぎながら、僕はまたシャッターを切り続けていた。