レインフォレストでの珍事!?


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下記の原稿は、2001年モーターマガジン社・月刊カメラマン誌に連載された《カナダ写真生活日記》の内容に、
加筆・訂正を加えてレイアウトし直した物です。




「いいわよ、あなたが撮影してる間、私は一人で森の中をウォーキングしてるから」

それだけ言うと、妻は足早に森の奥へと消えて行った・・・



アメリカ北西部からカナダ西部に渡る広い範囲には、
北太平洋からの湿った風が運ぶ大量の降雨により、寒帯雨林地帯(レインフォレスト)が広がっている。


この年、僕達はこの寒帯雨林を撮影するため、カナダ西部の森へと入っていた。


レインフォレストという言葉の響きからだろうか、
撮影前、僕はなぜかこの森に、柔らかい優しいイメージを抱いていた。

だが・・・

実際に、初めて僕がこの森に入った時の印象は、
子供の頃ディズニーの映画で見た「悪魔の住む森」というのがまさにピッタリのイメージで、
森全体が鬱蒼とした、苔むしたジャングルのようだった。


地面はもちろんの事、大木の樹皮、そして枝からもまるでカーテンのように苔が垂れ下がり、
それは正に悪魔のような形相で、撮影をしている僕に襲いかかって来そうな雰囲気が漂っていた。


カメラマンとして撮影をすることだけを考えれば、
この森は非常に変化があり、とても面白い被写体なのだが、
しばらくここでキャンプをするとなると、あまり気持の良い所ではない。

大量の蚊やハエ
カエルにトカゲ
そして黄緑色をした、大きなバナナナメクジが
びっしりとテントに張り付き、僕達を見送ってくれるのだ。



そんなレインフォレストの、あるトレイルで
僕が撮影をしていると・・・

二人組のハイカーが何か大声で叫びながら、あっという間に通り過ぎて行った。

「○○○が出たぞ〜」

早口で僕には聞き取れない。

だが二人の様子からして、この先に何かが出た事だけは僕にも直ぐに理解出来た。


僕は、ウォーキングしに森に入ったまま、いつまでも戻らない妻の事が急に心配になり、
機材を抱え森の奥へと急いで歩き始めた。

熊だろうか?

もしそうだとしたら・・・
妻は今、熊から身を守るような物は何も持っていないはずだ。

僕は足を速めながら、ベストのポケットから熊撃退用の大きなペッパースプレーを取り出し
更に森の奥へと向かった。




しばらくすると、前方から・・・
何事も無かったように、勢い良く妻が歩いて来た。

「無事か?何か出なかったか?」

「何か?…あぁさっきウォーキングしてたら、目の前に大きな犬が飛び出して来たけど…」

「はぁ?犬?・・・こんな森の中に?」

「黒くて大きくて、シッポがフサフサしてて…」


それを聞いて、僕は急いでザックの中から動物辞典を取り出し、
あるページを広げて妻に見せた。

「その犬って・・・・もしかしてこれじゃないのか?」

妻は黙ったまま、じっとそのページを覗き込んでから、ゆっくりと頷いた。

「…で、その後どうしたんだ」
「追い払っちゃったわよ…」
「素手でこいつを追い払ったのか?」
「だって突然出て来るんだもん」


僕は返す言葉が見つからず、
ただ・・・
その後出来るだけ妻とはケンカをしないでおこうと心に強く決めて、
オオカミの載ったそのページを静かに閉じた。