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いざカナダへ
《 その5 出るには、出たが・・・ 》
「藤江様、お二人様ですね?」
綺麗な声、爽やかな笑顔・・・
女性職員が淡々とチェックインの作業を進めて行く。
個人的には、綺麗なお姉さんが対応してくれた方が嬉しいのは当たり前だが、
今までの経験から、チェックインの時、男性よりも女性職員の方が厳しく、
融通がきかないのは、まず間違いの無い事実だった。
先日も、知人が機内持ち込み荷物の幅が、わずか二センチ大きいだけで
一万九千円も追加料金を取られたと嘆いていた事が、頭を過ぎる。
北米路線でのチェックイン可能な荷物は、一人につき二つ、
一つの重さが三十二キロまでと決められているが、
既に体重計を船便で送ってしまっていた僕達は、
ほとんど当てにならない自分達のカンだけで、
この三十二キロの荷造りをしてしまった。
「お預けのお荷物は、幾つございますか?」
「四つです」
素早く僕達の荷物に目線を送る女性職員の目が、妙に冷たく感じられた。
だがここで決して動揺を顔に出してはいけない。
僕は四つの中から一番軽い荷物を選び、さも軽そうに、
「なんでもないよー、どうってことないよー」
…というような涼しい顔をして持ち上げ、素早く台に載せた。
決してここで「ふーっ、よっこらしょ」等と言ってはいけない。
今までに、何度も重量オーバーを指摘された事がある僕達にとって、
ここが一番緊張する瞬間だった。
しかし、もしここで重量オーバーを指摘された場合でも…
「すいません、じゃあ今から直ぐ、ここで荷物を詰め直します」
…と言うと、優しい職員の方なら、たいがいは大目に見てくれるのだが、
たまに厳しい方に当ると、凄く冷たい声で・・・
「邪魔にならないように端でやって下さい!」
などと怒るので、もう目も当てられない。
以前、大勢の旅客が並ぶチェックインカウンターの直ぐ目の前で、
荷物の入れ換えをした時は、さすがに格好が悪かった。
僕の予想では、今回のチェックインする荷物の重量は、
一つが三十キロ以下、二つがオーバー、残る一つが微妙なところだった。
妻が女性職員に話しかけ、気を引いている間に、僕が残りの荷物を素早く台の上に載せる。
こうすれば一つづつの重量が分からないので、少しはごまかせるのだ。
ただこの時、カウンター上部に有る重量を表示する窓を、
さりげなくパスポートで覆っておく事が最重要ポイントだ。
今回の結果は、四つトータルで百三十五キロ。
七キロオーバーしていたが、なんとか大目に見てくれた。
チェックインが済んでも、僕達にはまだもう一つの難関が待っている。
機内持ち込みの手荷物検査だ。
チェックインする荷物に重量制限がある為、撮影用機材などの重たい物は、
極力手荷物にして機内に持ち込むしか方法が無い僕にとって
いつも問題になるのが、この検査での三脚だった。
仕事用の三脚は、当然でかくて重い!
それだけで充分に武器とみなされてしまう。
僕の三脚は重さが七キロほども有り、
もし梱包すると、それだけで八〜九キロにもなってしまう為、
チェックインする荷物の多い時には、とても預ける訳にはいかない。
部品をばらして、なんとか手荷物としてやり過ごそうとしたが、
この時はわずか数センチの差で、長さ制限に引っかかってしまった。
だが、こういう場合、スチュワーデス預かりというシステムが有る。
同じ便に搭乗するスチュワーデスさんが保管しておいて、降機地で返してくれるのだ。
僕は重い三脚を自分で運ばずにすむこのシステムが大好きだったのだが…
移住の最初から他力に頼ったばかりに、後で痛い目に遭う事になった。
現在、日本からカナダの西の玄関口バンクーバーまでは
日本航空、全日空、エアーカナダ、の三社が就航し、
毎日直行便で太平洋上空を結んでいる。
この直行便、一度乗ってしまうと、早くて便利でやめられないのだが・・・
時間と体力は有るが、資金に乏しい当時の僕達にとって、
直行便はまさに雲の上の贅沢品だった。
当然その日僕達が乗り込んだのも、アメリカ経由の格安コース。
関西空港からアメリカ・サンフランシスコへ向かうユナイテッドエアライン。
サンフランシスコの空港で、なんと八時間も乗り継ぎ待ちをした後、
シアトルに向かい、そこからようやくバンクーバーへ入る二十一時間の長時間耐久コースだ。
直行便で行けば八〜九時間で行けるのだから、
いくら体力が有ったとは言え、今なら絶対参加したくない。
長時間と言えば・・・
今から十数年前、
大阪伊丹空港からバンクーバーへ向かおうとした時にもひどい目に遭った覚えがある。
・・・・・・・
それまで航空会社や旅行代理店でチケットを買うのが普通の時代に、
格安チケットが世間一般に出回り始めた頃だ。
その年の僕達の予定では、大韓航空を利用し、
伊丹〜ソウル〜バンクーバーで、待ち時間を含めても十二時間ほどで、
目的地バンクーバーに着く予定だったのだが…
飛行機がソウルに着くと同時に、
なぜか僕達を含めた数十人の乗客が、会議室のような所に閉じ込められた。
もちろん何の説明も無しにだ。
一体何の為に閉じ込められたのか、何時まで待たされるのか、
それさえも分からぬままに、ただ意味の無い時間だけがどんどん過ぎて行った。
時折忘れた頃に現れる空港職員が、リストのような物を見ながら、
数人づつ別室へと連れ出して行く。
まるで、捕らわれた密航者が数人づつ取調べをされているような雰囲気が漂い、
不安という言葉だけが、密閉された空間全体をどんよりと埋めていた。
何度も覗き込む腕時計
新品の電池に入れ替えたばかりなのに、今日はやたらと進むのが遅い気がした。
先の見えない時間というのは、とんでもなく長く、そして重い。
何の情報も得られないまま・・・
僕達の乗る予定だった飛行機が離陸する時間が、
もう直ぐそこまで迫って来ていた。
しばらくして、また空港職員がやって来てリストを読み上げたが、
その中にも僕達の名前は入ってはいなかった。
もう我慢も限界だった。
僕は、ほとんど出来ないへたくそな英語で、必死に職員に訊いた。
「いつまで待たせるんだ、一体どうなってるんだ、
僕達の便はもう直ぐ離陸の時間なんだ…」
しかし、その職員は全く慌てる事も無く、ただ淡々と
「心配いらない、その便は故障して出発が遅れてるだけだから、問題無い」
そう言い残して部屋を出て行った。
この時点で、僕達には、この言葉を疑う理由は何も見当たら無かった。
ただ素直に「故障だから遅れてるらしいよ」「ああ、そうなの…」と納得していた。
・・・だが、そのわずか数分後
僕達は騙されていた事に気が付いた。
ガタンッ…
・・・と少し勢い良くドアが開き、また空港職員が姿を現した。
今までとは様子が少し違い、今回はかなり時間を気にしている。
きつい視線を、さっと室内に走らせた後、素早く読み上げられる数名の名前。
「ユキヒロ…ユキコ、フジエ」
僕達が前に出ると、職員は更に早口でこう言った。
「急いで下さい。もう直ぐに離陸します」
「えっ?・・・」
「さあ早く!走って!」
僕達は全く訳の分からないまま、その職員の背中を追って走り出していた。
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なんで走ってんだ?・・・と疑問をお持ちの方は、続きをどうぞ。
その6 常夏の島 カナダ?
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